おそらくどこかの軍隊のキャンプ。 差し迫った戦闘の可能性がないか、あるいは訓練であるとみえて、テントがずらりと並ぶそのキャンプはどこかリラックスした雰囲気。
ひとりの兵士が、「やつはエコーフォンEC-1を買ったぞ!」 と叫ぶと、そのテントめがけて兵士がみんな駆け寄ってくる・・・・。
QST誌に掲載されたエコーフォン コマーシャル EC-1の広告は、そういうひとコマのマンガがページ全面にあるだけ。
商品のイラストや写真はなく、どこのメーカーであるとも、どんな商品であるのかも、また価格がいくらであるとも、全く記述がありません。
ただ「やつはエコーフォンを買ったぞ!」
1941年初頭、しだいに忍び寄る不安のなか、EC-1は思い切った低価格の短波ラジオとして発売されました。
普通のラジオ番組ばかりではなく外国のニュースや音楽、アマチュア無線や航空無線も聴け、モールス信号練習機としても利用できる・・・
EC-1は誰にでも手が届く短波ラジオでした。
しかしその頃から 戦争の影がますます濃くなり、電子部品や機材の生産は軍用が最優先されるようになります。
民生用の短波受信機やアマチュア無線機の生産ラインは停止に近い状況となってバックオーダ状態となりました。
無線機メーカー各社の広告はどれも、重大事に対処するため全力で軍用機器の生産にあたっているのでハムの皆さんにはぜひご理解をいただくよう・・・と書かれています。
1941年11月号のQST誌では自作用の部品の入手もますます困難になってきたことが言及されていて、
真空管の寿命を最大限に活用するための運用法が掲載されています。
この月からEC-1の広告は有名なHoggarthシリーズになり、この第一作が上に書いた「やつはエコーフォンを買ったぞ!」。
この時からEC-1は明らかに軍の娯楽用ラジオとしてプロモートされ始めます。
そしてその翌月、"National Emergency"の言葉はとうとう"War"という言葉に置き換えられました。
アマチュアの送信は規制され、QST誌は非常用電源装置やローカル・コミュニティ緊急通信用の220MHz帯機器の製作記事、
また国防のために技術のあるアマチュアが力を発揮するよう啓蒙する広告で占められるようになります。
戦時中は通信機器の生産はほとんど軍事用に向けられましたが、
そういった中でエコーフォン コマーシャル EC-1は、戦時中生産が続けられた唯一の市販短波受信機と言われています。
軍のモラール・ラジオ目的であったことはその理由のひとつなのでしょう。
エコーフォン コマーシャル EC-1は、ハリクラフターズ社の設計・製造になる低価格ブランド、エコーフォン シリーズの第一作です。
GT管とメタル管による6球のシングルスーパーヘテロダインで、3バンド切り替えにより中波帯から30MHzまでをカバー。
CWを受信するためのBFOと微調のためのバンドスプレッド チューニングを持ちます。
電源トランスを持たないAC-DC電源方式。
バンドスプレッド バリコンはメインバリコンと一体になっており、バンドスプレッドダイヤルは左右に動く横行きスケールです。
周波数変換はペンタグリッド コンバータではなく、特殊な構造をした3極・6極複合管の12K8が使用されています。
EC-1は大戦の終了とともに
EC-1Aとして再設計されます。
より低コスト化するためにバンドスプレッド ダイヤルが分度器二つスタイルとされ、周波数変換はより高性能で安定なペンタグリッド コンバータ管に改められます。
EC-1はかなりの台数が生産されたと思われますが、低価格機であったたため、
あるいはおそらく軍のモラールラジオとして使われたためか、現在では程度の良い個体は少ないようです。